ユネスコセンター設立推進本部ニュース 第6号 2005年7月
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このニュースレターは、2005年度に土木研究所に設立予定の 水災害リスクマネジメント国際センター(略称、ICHARM)の設立準備活動を 広く関係者の皆様方に知っていただく目的で発行しているものです。 バックナンバーについては こちら をごらん下さい。 | |||||||
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1.本部長からのメッセージ | |||||||
国土交通省とオランダ運輸公共事業水利省の共催により 6月に東京で開催された日蘭水管理会議には、 両国からそれぞれ30名を超える代表団が参加して、 両国における水管理分野の現状と課題について、広く意見交換が行われました。 来年3月にメキシコで開催される第4回世界水フォーラムの成功に向けて、 第2回、第3回の開催国である両国が協力して取り組むことが合意されるなど、 「水」をキーワードにした連携・協力の意義を、 改めて両国で確認しあう場であったかと思います。 「水」を介した国際的な連帯感の醸成、ICHARM設立の意義、 活動の目的もまさにここにあると考えています。 土木研究所では、ICHARMでの研究活動に携わる 任期付研究員の国際公募を開始しました。 初めての試みとして、採用予定枠はまず1名ですが、 今後、水災害のリスクアセスメント、リスク軽減技術、 水災害情報の収集・発信、水文解析技術等の分野で、 順次国際公募による採用を予定しています。 皆様の周囲に関心のある方がいましたら、 公募情報の周知に協力いただければ幸いです。 (☞任期付研究員公募情報は こちら) | |||||||
ユネスコセンター設立推進本部長 | |||||||
2.活動のトピックス | |||||||
i. 愛知万博 国連館におけるユネスコセンターPR展示 土木研究所は、現在愛知県で開催中の「愛知万博(愛・地球博)」 (会期3月25日〜9月25日)の 『国連館』において、ユネスコセンターの設立計画を紹介するパネル展示を行っています。 愛知万博の主会場である長久手会場は、 「地球大交流」をイメージした「 グローバル・コモン(外国館) 」と 「グローバル・ループ(水平回廊) 」を基本骨格に会場が構成されています。 地下鉄東山線藤が丘駅と愛知環状鉄道万博八草駅を結ぶ リニアモーターカー(リニモ)の万博会場駅を下りると、駅前が北ゲート。 ここから歩いて約5分の「グローバル・コモン2」のエリアに 国連館があります(写真1)。 今回の企画展示では、7月3日(日)から8月5日(金)までの約1ヶ月間、 国連館内の『エデュケーションセンター』において 「世界の水災害の防止・軽減に向けて」と題した パネル展示と配布を行っています(写真2)。 土木研究所ユネスコセンター設立の背景、経緯及び活動予定内容の概要等について、 学生を含む一般の来場者にわかりやすく説明する内容になっていますので、 機会がありましたら是非お立ち寄り下さい。 会場へのアクセス方法等は、愛・地球博公式ホームページをご覧下さい。
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国連館外観 | パネル展示状況 | ||||||
ii. Coops教授による気候変動、洪水防御及び河川環境復元に関する講演会 ユネスコセンター設立推進本部は6月28日、 オランダ公共事業省所属研究所(RIZA)の上席水域生態学者で 現在島根大学汽水域研究センターの客員教授をしておられる Hugo Coops氏をお招きして 「ライン川における気候変動、洪水防御及び河川環境復元について」と題した 講演をいただきました。 本講演ではまずライン川の治水に関する歴史を環境問題とあわせて 紹介していただきました。 ライン川では1970−80年代環境が悪化しましたが、 「Rhine Action Programme」、「Living Rivers」等の政策によって 環境の改善が図られました。 河川の開発を進める上で環境保全は避けて通れない問題です。 次に気候変動の河川への影響についてお話いただきました。 様々な地球温暖化のシナリオが提出されていますが、 今世紀末までに年平均気温が2度上昇すると氷河の融解などにより 1月のライン川の流出量は20%以上も増加するといわれています。 また海水準も20cm以上上昇する見込みとのことです。 これら気候変動を念頭に置いた水政策の例として、 「Grensmaas-project」、「Room for River」 さらには「EU Water Framework Directive」を紹介していただきました。 また、ハーリングフリート水門開放に関するお話も頂きました。 ハーリングフリート水門は、洪水防御、 淡水化による飲料水及び農業用水の確保、 そして船舶航行用の安定した水深の確保のために建設されました。 しかし水門による環境の悪化が深刻となるとともに、 水門により失われた汽水域回復の声が高まりました。 そして2004年に水門の部分的開放が決定されたとのことです。 解放後、水門は高潮時の洪水防御用として使用することとなります。 ICHARMでは研究活動の一環として、世界の河川流域が抱える問題と解決策の比較研究を通じて、 新たな発想に基づく水災害リスク軽減に寄与することを考えています。 その基盤づくりのために、このような講演会を今後とも、積極的に行う予定です。 | |||||||
講演するCoops教授 | 講演のパワーポイント | ||||||
3. 研究紹介 | |||||||
i. 都市空間におけるヒートアイランド軽減技術とその評価手法 水文チーム専門研究員 飯泉 佳子
人口の集中と大量のエネルギー消費、緑被や水面の減少などにより、 夏季における都市域の温暖化現象(ヒートアイランド現象)が進行していることが 一般に広く認識されています。 このため土木研究所では、都市域におけるヒートアイランド現象の シミュレーション技術を開発し、複数の想定対策シナリオに基づき 気温低減・使用エネルギー削減効果を定量的に評価して、 対策手法の費用便益評価を行う手法の提案を行いました。 1. 都市域におけるヒートアイランド現象とその対策効果のシミュレーション技術 米国大気研究センター(NCAR)が無償で提供している メソスケール気象数値計算モデル(MM5)に改良を加えて、 首都圏における地表標高、土地利用、人工排熱等の情報を用いて、 夏季晴天時の気温、湿度、風速の時空間分布を再現するとともに、 各種ヒートアイランド対策の効果を試算することのできる シミュレーションモデルを開発しました。 図は、各対策の気温低下量の試算結果を示しています。 それぞれの対策を全土地面積の10%で行った場合、 日中の気温低下量が最も大きいのは水面の再生でした。 2. 対策シナリオの費用と気温低減・使用エネルギー削減効果の解明 ヒートアイランド対策が広域的に普及した時の 社会全体への影響・効果を評価するという観点から、 各種対策シナリオによる気温低減効果の試算に加えて、 その対策実施に要するトータルの費用(C: cost)(初期費用と維持管理費用)と 各種便益(B: benefit)の算定を行いました。 検討対象とする対策は、水面再生等の「自然環境の保全や復元」、 舗装改善等の「人工被覆の熱特性改善」、「人工排熱の削減」としました。 B/Cで見た場合、地上緑化と家庭部門の排熱削減対策が最も有効と評価されました。 これら本研究により得られた成果は、 様々な仮定や条件設定のもとで得られた試算結果の1つです。 | |||||||
4. 参加会議報告 | |||||||
i. ESCAP/WMO台風委員会主催の効果的な台風予警報に関するワークショップ(4月24〜28日) ESCAP/WMO 台風委員会主催による「効果的な台風予警報に関するワークショップ」が中国上海市で開催されました。 土木研究所から深見上席研究員が洪水対策に関する専門家の一人として参加し、 災害インパクトと脆弱性に関する分析のセッションにお いて、「洪水リスクマネジメント:総合的なアプローチの必要性」と題して、 プレゼンテーションを行いました。 この中で、 洪水リスクマネジメントサイクルのあり方と、そのサイクルを阻害する貧困等の社会経済的 問題を指摘するとともに、我が国の第二次大戦直後の貧困の時代から進めてきた洪水 防御対策について、かつて構造物対策中心で進めてきたが、都市水害等を契機として 非構造物対策も含めて実施する方向に変化してきた歴史的経緯を説明し、両者のバラ ンスや社会経済発展のための総合的施策が洪水災害軽減にとって重要であることを報告しました。 会議では、上記セッションの他に、気象予測の精度・信頼性、予警報発令のあり方、 一般への教育・普及のあり方のセッションが設けられ、最後に総合討論を経て、 報告書のとりまとめが行われました。台風予報技術は確かに大きく進歩して いますが、河川・砂防分野での洪水予警報の立場から見ると予測の時空間スケールに おいて不十分な点も残されており、不確かな部分を含めて今後の洪水予警報のあり方 について、気象分野と水文分野の専門家との密な議論をさらに進めていく必要がある と考えられます。 | |||||||
ii. アジア学術会議第5回年次総会(5月11〜13日) ベトナム、ハノイで開かれた、 アジア学術会議第5回年次総会の 「水文学分野の共同研究に関するアジア学術会議共同プロジェクト・ワークショップ: 水資源及び水文学に関する近年の発展」に田中上席研究員及び吉谷上席研究員が参加しました。 このワークショップは中央大学の山田正教授が主催したもので、 水資源問題解決に貢献するソフトウェアツール開発に焦点が置かれました。 本ワークショップでは水問題に関するソフトウェアの開発と使用について それぞれ異なる側面をカバーした8つの発表がありました。 コンピュータモデルの利用は水文学的研究、キャパシティビルディング及び 意思決定の場であるコミュニティへの住民参加を促すための重要な要素となっています。 参加者は水モデリングにおいて情報交換と連携の促進は この地域にとって重要であることで合意しました。 吉谷上席研究員は本ワークショップの中で、モデル応用における成功例と失敗例、 ICHARMの準備活動の紹介を行いました。 | |||||||
iii. 日蘭水管理会議(6月8日) 6月8日、東京三田において、日蘭水管理会議が開催されました。 オランダ側からは、運輸公共事業水利省のファンハーヘン副大臣以下、 日本側からは国土交通省蓮実副大臣以下、それぞれ約30名の代表団が参加しました。 日本側代表団の一員として参加した寺川本部長は、 「水管理行政のしくみ」についてのセッションの中で、 「技術開発分野における官民連携」と題して、 土木研究所が実施している官民共同研究の枠組み及び実績、 海外研究機関との研究協力の状況及びICHARM設立計画等について、 約30分のプレゼンテーションを行いました。 まとめの全体会議の中で、両国の副大臣により、 宣言文書の調印がなされました。 この中で、両国の協力関係をさらに拡大することとともに、 洪水管理、水と土地利用計画、水管理における革新的な取り組み、 水に関する技術開発、水管理の制度、統合水資源管理、統合海岸区域管理、 評価とモニタリングといった項目について、 「政策と戦略」「問題の分析」及び「優良な手法や具体的な実施事項」 に関する情報の交換を進めていくことが合意されました。 オランダ代表団のうち、国立沿岸域管理研究所のファンデルヘー所長を始め 14名のメンバーが、会議の翌日、 つくばの国土技術政策総合研究所及び土木研究所を訪問し、 施設見学及び両国の研究体制や洪水対策の現状と課題等について、関係者と情報・意見交換を行いました。 | |||||||
iv. Acid Rain 2005 酸性雨に関する国際会議第7回大会(6月12〜17日) 2005年6月12日〜17日、チェコ共和国のプラハにおいて酸性雨に関する国際会議 (Acid rain 2005, http://www.acidrain2005.cz/)が開催されました。 本大会の発表登録件数は、口頭・ポスター発表合わせて650件程度で、 世界各国の大気汚染物質の排出状況や大気汚染物質の長距離輸送モデル、 生態系モデルの開発等に関する研究の報告が行われました。 本会議において飯泉専門研究員が 「Chemical characteristics of stream water and material balance at a forested catchment in Tokyo, Japan」 と題して東京都多摩川の支川流域において、 降雨を含む流域全体での物質収支の実態を、 洪水時と平常時の観測データから明らかにした結果について発表しました。 | |||||||
v. 2005年アジア・オセアニア地球物理学会(AOGS)第二回年次大会(6月20〜24日) シンガポールにおいて第二回アジア・オセアニア地球物理学会年次大会が開催され、 手計研究員が参加しました。本大会期間中、 「Hydrological Science」部門において、 「Impact of large-scale reservoirs development on hydrological regime in the Chao Phray River basin, Kingdom of Thailand」 と題して研究発表を行いました。 発表後、多くの聴講者と意見交換を行い、今後の研究活動に資する情報を得ることができました。 | |||||||
vi. 第28回日韓河川及び水資源開発技術協力会議(7月3〜7日) 第28回日韓河川及び水資源開発技術協力会議が 韓国で開催され、 田中上席研究員が日本政府代表団の一員として参加しました。 本会議は1977年に日韓科学技術大臣会議の共同声明に基づき設置されたもので、 日韓両国の河川及び水資源開発に関する技術上の問題について 研究発表、意見交換を行い、両国の技術協力を推進することを目的に、 毎年両国で交互に会議を開催しているものです。 日本側の代表団は土屋彰男河川局次長を首席代表とする12名、 韓国側は首席代表全炳成建設交通部水資源局長他13名でした。 本会議では、3つの共通議題 (1) 洪水リスク管理について、 (2) 土地利用を考慮した治水事業、 (3) ダム事業の課題について両国から発表があり、活発な討議が行われました。 洪水リスク管理のセッションでは、 韓国では1992年から2001年までの10年間における 日降水量100mm以上の発生回数が、 1971〜1980の10年間に比べて約1.5倍になっていることや 韓国における自然災害が主に風水害であり、 その被害額が1998年からは毎年1000億円を超える状況が続いている との発表がありました。 形態としては、我が国と同じように中小河川や大河川の支川などでの 災害が多発しているとのことでした。 韓国は自然条件が我が国と類似している点が多く、 情報交換により相互に学ぶべきものが多くあると思われます。 | |||||||
5. 関連研究情報 ―国土技術政策総合研究所河川研究室の研究紹介― | |||||||
洪水による家屋倒壊を再現 ―刈谷田川中之島地区の数値シミュレーション及び水理模型実験― 国土技術政策総合研究所 河川研究室では 昨年7月新潟・福島豪雨災害で破堤した刈谷田川中之島地区の 氾濫解析数値シミュレーション及び水理模型実験を行い、 家屋倒壊の様子を試みています。この実験の概要について 河川研究室の末次室長及び川口研究官に取材しました。 平成16年7月12日から13日にかけて新潟県と福島県を集中豪雨が襲いました。 この豪雨により五十嵐川、刈谷田川、猿橋川が破堤し大規模な洪水災害が発生しました。 特に刈谷田川中之島地区の洪水被害は甚大で、 死者は3名、全壊した家屋は16棟、半壊した家屋は37棟にのぼりました。 河川研究室では, 同地区における倒壊流出家屋の多さに注目し、 その原因究明のため刈谷田川河道及び氾濫原である同地区の 地形と家屋の大きさや位置の詳細な航空測量用い、 家屋流失モデルを取り込んだ数値シミュレーションを行っています。 またこれとあわせて、数値シミュレーションでは正確に評価できない破堤点からの流出量や 家屋にかかる水圧を縮尺1/40の水理模型実験で再現し、 家屋流失の実態を調べています。 数値シミュレーションでは破堤後40分の間に 14棟が大きな水位差を伴う洪水氾濫流により流失するという計算結果が得られており、 この14棟は実際の同地区洪水の際に流出した16棟のうちの14棟に一致します。 また模型実験によると破堤点から300mの範囲で、流失を招くの恐れのある 高い水圧が家屋にかかっていたことがわかってきました。 模型では破堤から3時間後までに16棟が倒壊、流失しました。 ただし、「実際に倒壊するかは家屋の築後年数に依存するところが大きい」 と川口研究官。 また、「今後は、同地区のどの地域にどれくらい早く洪水流がまわるか、 どの地域の家屋が緊急時の避難場所として安全かを研究し、 実際に洪水ハザードマップ等へ反映させることを目指す」とのことでした。 (取材:片山 淳子) | |||||||
6. 今後の参加予定会議 | |||||||
水文・水資源学会2005年度総会・研究発表会 http://taikai2005.jshwr.org/modules/xfsection/ 【2005年8月3-5日 つくば市、日本】
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第2回東南アジア水フォーラム 【2005年8月28-9月3日 バリ、インドネシア】 | ミレニアム発展目標に向けたリスクマネジメントと 台風関連災害の社会経済的な影響評価に関する国際ワークショップ 【2005年9月5-9日 クアラルンプール、マレーシア】 | 国際水工学会第31回大会 http://www.iahr2005.or.kr/ 【2005年9月12−16日 韓国,、ソウル】 | お知らせ このニュースレターはEメールで配布しております。 またウェブ上でも公開いたします。 メーリングリストへ登録希望の方は下記アドレスまでご連絡下さい。 また、ご意見・ご要望も随時受け付けておりますので、下記アドレスまでお送りくださると幸いです。 編集・発行:独立行政法人土木研究所 ユネスコセンター設立推進本部 〒305-8516 茨城県つくば市南原1−6 Tel : 029-879-6809 Fax : 029-879-6709 Eメール: whrm@pwri.go.jp ホームページ: http://www.unesco.pwri.go.jp/ 誌代・送料:無料 Copyright (c) 2008 独立行政法人 土木研究所 |