2022年6月21日 改定
ICHARMの使命は、世界から、国、地域レベルで水関連災害とリスクマネジメントに携わる政府とあらゆる関係者を支援するために、自然、社会現象の観測、分析、手法・手段(水災害のハザード解析や脆弱性把握などリスク評価)の開発、能力育成、知的ネットワーク構築、教訓、情報の発信等を通じて、水関連災害・リスクマネジメントの世界的な中核的研究拠点としての役割を果たすことである。ここでは、水関連災害として洪水、渇水、地すべり、土石流、津波、高潮、水質汚濁、雪氷災害をいう。
ここでいう世界的な中核的研究拠点とは、(1) 革新的な研究、(2) 効果的な能力育成、(3) 効率的な情報ネットワークによって、世界をリードする人材、優れた施設、知的財産を擁する場を意味する。この3 本柱によって、ICHARMは国家、地域における現場実践の知的拠点、及び実社会での政策立案における助言者としての役割を世界において果たす。なお、ICHARMは多様性を尊重し、全てのステークホルダーの参画を期しつつ活動を推進する。
国連2030アジェンダ(SDGs)では持続的かつレジリエントな道筋への移行が強調され、国連仙台防災枠組では災害リスク軽減とレジリエンスの強化のための4つの優先行動が位置付けられており、いずれも2030年を目標としている。UNESCO 第9期政府間水文学計画(IHP-IX)では、持続可能でレジリエントな社会の構築を目指し、水の管理と統治の意思決定を支援する能力との確立のために、5つの優先領域が設定され、2029年までの8年間の研究・教育活動が開始されている。また、気候変動に関する政府間パネルは、緩和策、適応策と持続可能な開発を連携させることの重要性を指摘している。
我が国では、気候の変化に伴う水災害の激甚化に対応するため、気候の変化に関する最先端の科学技術に基づく治水計画のあり方が提言され、さらには水災害に対するレジリエンスと地域社会の持続性を高める流域全体の取組である「流域治水」への転換が答申された。これらを受けて、実施のための法整備や投資計画が策定され、全国の河川整備の基本方針の改定作業が始まり、順次実行のための整備計画の策定作業が進められている。同時に、Society5.0の科学政策が進められ、ディジタル庁が創設され、DX が加速されている。
甚大な水災害から人命、財産を守るために、1世紀にわたって技術研究に取り組んできた土木研究所に設置されたICHARM では、水災害レジリエンスと持続可能性の双方の強化を目指す科学的知見の創出と共有、社会的な能力向上を進めて我が国の「流域治水」の推進に貢献する。加えて、国際的情報ネットワーク力をさらに高めて各地域、世界各国の水災害の状況を理解し、水災害にレジリエントで持続可能な社会構築を担う人材の育成と我が国の経験を踏まえた科学的知見の共有を通じて、IHP-IXの5つの優先分野を実行し、各国による2030アジェンダおよび仙台防災枠組の目標達成を支援する。
そこで研究分野では、水災害ハザード、リスクの両面におけるデータの収集から、社会・経済面を含めたリスク評価やリスクの変化予測、さらには実践策の検討や実行を支援する一連の研究を高度化するとともに、水利用・公衆衛生分野、気候分野はもとより、都市計画分野、生態・生物多様性分野、農業分野、エネルギー、感染症対策分野との連携をはかり、新たな生活スタイルや国土形成も視野に入れ、水災害のレジリエンスの強化と持続可能な社会の構築に資する科学知を統合するEnd to End(データの取得から、自然現象の解明・評価・予測、社会・経済への影響評価までの一気通貫の研究)の研究を実施する。
能力育成分野では、現場の問題事象に即した問題解決能力や、ステークホルダーの利害関係の調整が不可欠であり、水災害ハザード、リスク分野の科学知を習得し、創出する能力を養う大学院教育を行うとともに、水災害のレジリエンスと持続可能性の向上に関わる取り組みを統合的な科学知に基づいて助言するファシリテータを育成する。
情報ネットワーク分野では、2030アジェンダ、仙台防災枠組、IHP-IX、「流域治水」において、水災害のレジリエンスと持続可能性の課題を見える化しマッピングして、ICHARMの行動目標を随時アップデートする。またIFI の枠組み等を活用することにより、研究分野、能力育成分野と統合・連携し活動を推進する。
途上国では被害や気象水文等のデータ収集、保存、共有、統計化が不十分なため、水災害の実態と地域特有の自然、社会条件に応じた合理的な防災計画を作ることが難しい。この点を防災、減災を推進する上での最も根源的な隘路と認識し、ICHARMはデータ管理技術の開発を今後の重要な研究テーマとする。さらに関係省庁の横断的連携や官民による協働が一層必要となっており、ICHARM は分野横断的な情報や知識を統合した水防災・減災のための「知の統合」の構築を図る。
具体的には、ハザード、暴露、脆弱性に関するデータや関連情報の収集、保存を行い、ステークホルダーとの間で共有する技術を研究するとともに、各国、地域が実行可能な被害データの収集手法を開発して実装を支援する。また、現地データに衛星観測や数値モデルを組み合わせて、より広域のデータや情報を作成する手法を開発し、その結果の各国、地域の保存、共有を促進する。さらに、被災国による信頼性の高い水災害統計の作成を技術的に支援し、関係者によるリアルタイム利用を可能にする。 あわせて、水災害対策と深く関わる都市計画、農業、エネルギー、自然環境、感染症対策等の各分野の政策や情報を統合・共有等できる情報基盤をデジタルツイン上で構築する。
以上により、防災、減災を推進する上での最も根源的なデータ収集、保存、共有、統計化の促進に貢献する。
ICHARMはこれまでIFASやRRI、WEB-RRI、土砂・流木・洪水氾濫、農業的渇水監視・予測システム(CLVDAS)などのハザード評価手法や、経済被害等の脆弱性評価手法を個々に開発してきた。しかし、流域の水災害リスクを全ての関係者が理解し共有するためには、ハザード、暴露、脆弱性評価を統合して行うことにより、都市計画、農業、エネルギー、自然環境保全等各分野における影響評価との連接を図ることが求められている。
そこで、水災害評価モデルと関連分野のモデルを結合する手法を開発し、検証するとともに、流域全体での影響を統合的に表す指標の開発を推進する。国内外の複数地域において、地域の個別状況を踏まえた水災害リスクのアセスメントの事例研究を進め、その結果を活用することで、それぞれの地域の特性を踏まえたリスク評価を地域自ら行うことで水災害リスクの軽減に役立てることを支援する。また、仙台防災枠組のグローバルターゲットの計測手法が確立していないことに鑑み、地域適用研究を積み重ね、その相互比較を通して、国際的に利用できる方法論の開発に貢献する。
以上により、適切なリスク情報の創出とこれに基づく水災害リスクの理解の促進に貢献する。
水災害リスクは、気候変化等によるハザード変化と都市化、世界的な感染症の拡大等による脆弱性の変化などにより、時間の経過と共に変化する。リスクが増加する場合には、現在のリスク情報に基づく防災対策では、将来の災害に適切に対応できない懸念が生じる。また、リスク増加に応じた対策の効果が適切に評価されないと、防災投資の経済性が過小評価されることにもなる。このため、ICHARMは過去から現在にかけてのリスクの変化を踏まえつつ、将来のリスクの予測につなげる研究を行う。
具体的には、季節変化から気候変動の影響までの時間スケールの気象の変化に影響されるハザードの変化と、社会開発や経済変動に伴う水災害の暴露、脆弱性の変化に関するモニタリングと予測の手法を開発、検証、高度化する。また、これを用いて事例研究を進め、それぞれの地域が手法を自ら地域の状況にあわせながら利用して、将来の水災害リスクの緩和に役立てることを支援するとともに、手法の相互比較を通して国際的に活用できる手法を提案する。
以上により、水災害リスクの増大を考慮した適切な防災、減災施策の立案に貢献する。
途上国などでは防災投資の優先度が低いため多くの災害を受け、持続的な経済活動の阻害となっている。我が国では、「流域治水」を推進しており、防災投資と地域経営の関連を明らかにすることが重要となっている。これらは、学際的かつ行政と民間が融合した取り組みを必要としている。このため、ICHARMでは防災投資の有効性、効率性を明示するため、地域固有の背景を踏まえた水災害リスク軽減のための政策事例を提示し評価する研究を行う。
研究では、気候変化の下で、持続可能な開発を支える防災、減災政策の重要性に対する関係者の理解を深めるとともに、各地域の生活様式や社会・経済活動、今後のリスクの変化も考慮した各国の自立的で新しい政策提案を支援するため、政策の具体的な事例を地域への適応度の観点で分析する。また、個々の政策の効果の計測モデルと、各国で適用可能な社会経済の評価手法を開発する。また、地域における合意形成と政策の意思決定を支援する能力開発を行う。
以上により、各国と地方の政府や投資機関による防災投資の意思決定に貢献する。
様々な対策が減災に大きく貢献した事例がある一方で、例えば住民への情報伝達がうまく機能せず避難等が遅れて大きな被害を防げなかった事例なども多く報告されている。
また想定を超える災害発生時にも、適切な救援、応急措置をとって速やかに復旧し、地域の長期展望に基づいたよりよい復興が可能な社会を構築する必要がある。そのためには地方行政や市民の防災・減災意識の向上と実践できる体制づくりの支援が必要である。ICHARMでは、地域の社会構造や人間の行動様式などを多面的に捉え、災害時に施策の効果が最大限発揮されるよう、関係者の十分な相互理解のもと各種施策の立案から実施、効果の発現に至る手法を開発し、実装を支援する。
具体的には、早期警戒システム等から得られる情報を行政、市民間で効果的に共有できる方策を支援し、それに基づき様々なセクターによる災害への連携した対応、地域の実情に合った業務継続計画の策定、各行政機能の効果的な連携体制を構築するための手法の開発、検証を進め、社会実装を支援する。
以上により、市民、行政のリスク認識の向上を支援し、実践を通して地域の水災害に対する防災・減災の実践力の向上に貢献する。
ハザード、暴露、脆弱性に関するデータや関連情報の収集、保存を行い、関連するステークホルダーとの間で共有する技術を研究するとともに、現地で実行可能な被害データの収集手法を開発して実装を支援し、各国、地域が実施するデータの収集、保存、共有の促進を図る。また、各国による信頼性の高い水災害統計の作成を技術的に支援する。
水災害評価モデルと関連分野のモデルを結合する手法を開発し、検証するとともに、流域全体での影響を統合的に表す指標の開発を推進する。国内外の複数地域において、地域の個別状況を踏まえた水災害リスクのアセスメントの事例研究を進め、その結果を活用することで、それぞれの地域の特性を踏まえたリスク評価を地域自ら行うことで水災害リスクの軽減に役立てることを支援する。
季節変化から気候変動の影響までの時間スケールの気象の変化に影響されるハザードの変化と、社会開発や経済変動に伴う水災害の暴露、脆弱性の変化に関するモニタリングと予測の手法を開発、検証、高度化する。また、国内外の複数地域において、これを用いた事例研究を進め、それぞれのステークホルダーが手法を自ら地域の状況にあわせながら利用して将来の水災害リスクの緩和に役立てることを支援するとともに、手法の相互比較を通して国際的に活用できる手法を提案する。
気候変動の下で適応可能な政策を分析するには、防災政策についてのステークホルダーの理解や、住民の生活、社会経済活動、リスクの変化を勘案した具体的な政策提案が重要になる。そのため、個々の政策の効果の計測モデルと、各国で適応可能な社会経済の評価手法を開発する。また、地域における合意形成と政策の意思決定を支援する能力開発を行う。
国内外の複数地域において、早期警戒システム等から得られる情報を行政、市民間で効果的に共有できる方策を支援し、それに基づき様々なセクターによる災害への連携した対応、地域の実情に合った業務継続計画の策定、各行政機能の効果的な連携体制を構築するための手法の開発、検証を進め、社会実装を支援する。