研究の紹介

AIを用いた排水機場のポンプ設備の状態監視と診断



図-1 排水機場概要図

図-1 排水機場概要図


図-2 状況監視モニタリングシステムの設置例

図-2 状況監視モニタリングシステムの設置例


 図-3 ポンプ主軸等異常と異常予測確率

図-3 ポンプ主軸等異常と異常予測確率


 河川に設置されている排水機場(図-1参照)のポンプ設備は、洪水による被害を防止する極めて重要な役割を担っており、台風や大雨による出水時に「確実な稼働」を将来に亘り担保し続けることが求められています。しかし、設置から40年以上経った設備が増加しており、老朽化による故障頻度の上昇が懸念されています。 また、管理担当者の高齢化による熟練技術者の減少と若手技術者の不足、更にゲリラ豪雨の増加による稼動頻度の増大も予想されています。


 このため、より効率的かつ的確な設備の維持管理の実現を目的に、これまで常用設備で導入されていた「状態監視保全」を「非常用設備」である排水機場のポンプ設備の維持管理に導入する研究を進めています。具体的には、排水機場のポンプ設備に常設のセンサを設置し、出水時の排水運転のデータを計測することで、設備の状態を時系列データで監視できる「状態監視モニタリングシステム」を構築します。 更に、計測した排水運転の膨大な時系列データを基に機械学習等の AI を用いて異常を検知することで、熟練点検者によらずとも一定レベルの診断が可能となる「AI 異常検知システム」を開発します。

 

 「状態監視モニタリングシステム」の構築では、排水機場のポンプ設備の異常検知に適したセンサの検討を行い、テストベットとして全国 5か所の設備に状態監視モニタリングシステムを常設しました。これにより、管理運転及び実稼働運転すべての稼働データを連続した時系列データとして計測することを可能にしました。 図-2は、排水機場のポンプ設備に状態監視モニタリングシステムを設置した事例です。


 「AI 異常検知システム」の開発では、状態監視モニタリングシステムにより収集したデータを基に、排水機場のポンプ設備の異常を検知できるAI異常検知システムを試作しました。点検に従事している管理者や専門技術者、更に今後増えると予想される経験の浅い技術者の補助となるシステムの開発を目指しています。

  

 試作したシステムでは、異常の種類を判別するため入力データを正常・異常A・異常Bなどに分類するアルゴリズムを検証しました。時系列データの分類に使用できるAIモデルの中でも、周波数領域のデータを扱うモデルが適切と考え、分類モデルは比較的精度が高く、GPUなどのアクセラレーションが無くても学習、推論速度が速い、「決定木」と「アンサンブル学習」という2つの手法を組み合わせたアルゴリズムを採用しました。
 また、故障を確認した際に、故障の有無だけではなく、故障の程度である異常レベルも判定できるシステムとしました。異常レベル判定の基準は、国土交通省の「河川ポンプ状態監視ガイドライン」とISO振動規格を基に仮の閾値を定め、センサで収集したデータの値と閾値を比較することで、判定することにしました。

  

 疑似的に作成した異常データと正常データを解析した結果(図-3)では、試作したAI異常検知システムの異常種別の判定精度は、100%に近い確率となりました。この結果から、試作モデルにおいて、AI異常検知システムの異常種別判定がある程度機能していると考えています。

  

 今後も、テストベッドでの様々な実稼働データの収集やシステムで解析するために最も適したデータ処理方法等の検討を行い、AI異常検知システムの精度向上を目指して研究を進めていきます。加えて、状態監視モニタリングシステムの設置設備数の増強や生成AIを用いた疑似異常データ作成の研究も進めることを計画しています。



(問い合わせ先 : 技術推進本部 先端技術チーム)

水産土木チームの研究紹介

 北海道は、全国トップの水揚げ量を誇る我が国水産業の重要拠点ですが、近年は、漁業生産量の減少や漁業地域の担い手不足等の課題が山積しており、水産業・漁村を取り巻く状況は厳しさを増しています。
 水産土木チームは、漁場環境の適切な保全管理や海域の生産力の向上を図ることを目的に、漁港水域の有効活用(図-1)や沖合域の人工魚礁漁場整備(図-2)に関する技術の研究を進めています。
 ここでは、現在進めている研究の内容を紹介します。


1.海域の環境変化に対応した水産資源の増養殖に資する漁港施設の活用に関する研究

 近年の気候変動等の影響から水生生物の生息環境や分布域の変化が顕著になっており、2021年秋には、史上初めて北海道太平洋側の沿岸域において国内最大規模の赤潮が発生し、多大な漁業被害をもたらしました。

 今後もこうした被害の発生が懸念される中で、赤潮等の有害有毒プランクトンの増殖を抑制する藻場の機能に着目し、漁港施設や水域を活用した増養殖を促進する技術を研究しています。



2.河口域に位置する漁港施設を活用した水生生物の生息環境改善に関する研究

 河口域は、河川を通じて陸域から栄養塩が供給され、二枚貝等多くの生物の生息場となっている一方、海域においては、近年の気候変動の影響により栄養塩の供給に変化が生じており、場所によっては貧栄養化による生産量の減少が報告されています。こうした中で、河口域に位置する漁港の水域を活用し、漁港施設を活用して河川から流入する栄養塩を捕捉し、新たな生態系を創出する技術を研究しています。



3.北方海域における沖合構造物による漁場環境改善技術に関する研究

 沖合漁業は漁業生産量の多くを占めますが、その生産量はピーク時の約1/3に減少しています。他方、沖合域においては、人工魚礁設置等の漁場整備に関する観測データ等の蓄積が十分ではなく、本格的な事業実施に結びつけられていません。そこで、実際に水深90mの海域に設置されている構造物周辺の物理環境や生物の生息状況を調査し、構造物が有する餌料培養効果、魚類蝟集効果、魚体増肉効果を解明する研究を行っています。



図-1 漁港水域の活用イメージ

図-1 漁港水域の活用イメージ
図-2 沖合域の人工魚礁漁場のイメージ

図-2 沖合域の人工魚礁漁場のイメージ



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所  水産土木チーム)