森と川のつながり(1)
「森が川の生き物をはぐくむ」、このようなことを最近よく耳にします。しかし、どのようなメカニズムで森が川の生き物に影響しているのかはあまり知られていません。実は、森と川のつながりを考えるうえで、川沿いの林(河畔林・渓畔林)は非常に重要で、最近の研究からその多面的な機能が明らかになってきました。ここではその機能について、河川の上流域を対象に紹介します。
日本を流れる河川の上流域は、そのほとんどが鬱蒼とした森で覆われ、そこにはイワナやヤマメといった渓流魚が生息しています。例えば、河畔林が川の上を覆うと河川に差し込む太陽光が遮断され、水温上昇を抑えることで、渓流魚にとって好適な環境が維持されています。渓流魚は一年を通して水温の低い川にしか生息できず、実際、河畔林の伐採によって河川水温が上昇し、渓流魚の生息密度が低くなった例もあります。
また、河畔林は水温調節機能だけでなく、時には渓流魚の生息場(ハビタット)も提供します。川沿いの木々が河川の浸食作用によって川に倒れ込むと、その木の下流側には深い淵が形成されます。渓流魚は、この淵の落ち込み部分より少し下流側で、流れの緩い層に定位し採餌します。さらに、このような倒流木によってできた淵の淵尻では、渓流魚の産卵行動が観察されます。
河畔林はこの他にも多くの機能を保持しており、次回は、水生昆虫や魚類に対する餌供給機能について説明します。
河口洋一
(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム