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森と川のつながり(2)

 初夏、陸上では森の木々が生い茂り美しい花が咲き乱れる頃、川の中では魚たちの活動に変化が見られます。雪解け水が流れ込む春先には、水温が低いため渓流の魚たち(イワナやヤマメ)の活性も低く、渓流魚は流下する水生昆虫をゆっくり採餌していました。しかし、水温が上がるにつれて魚たちの活動は活発になり、初夏には陸上から落下あるいは流下している陸生昆虫を選択的に食べるようになります。幾つかの研究は、夏期の渓流魚の胃内容物が陸生昆虫によって約7割以上占められていると報告し、さらに、渓流魚の1年間の総採餌量のうち、約半分が陸生昆虫によって占められるという報告もあります。川の中で生きている渓流魚にとって、陸上から供給される陸生昆虫が非常に重要な餌資源であることがわかります。

 また秋には、河畔林から大量の落ち葉が河川に供給されます。河川内の生産性が相対的に小さい上流域では、この落ち葉が河川内の栄養基盤として非常に重要であると言われてきました。水中に入った落ち葉は、まずその表面にバクテリアが付着し、そして比較的柔らかい葉から水生昆虫によって利用されます。また、この落ち葉から溶出する栄養塩は藻類にも利用され、植食性の水生昆虫がこれら藻類を摂餌します。落ち葉は直接そして間接的に水生昆虫に利用され、さらに魚類が水生昆虫を捕食することによって、より上位の栄養段階の生物にも利用されることになります。

 このような陸生昆虫や落ち葉といった物質の移動を介し、森と川は密接な関係を維持しています。例えば、河畔林の伐採や植生タイプが人為的に改変される場合、これら有機物の供給量や時期そして質は変化し、さらにそれらを利用する水生の生物群集にも影響を及ぼす可能性があります。特に河川上流域において河川生物の生息環境を考える場合、川だけでなく隣接する陸域の管理も含めて考えていく必要がありそうです。


河口洋一

(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム

川に落下する陸生昆虫を
捕らえるパントラップ。