川と共に 米国における河川の自然環境研修
2000年11月~2001年10月米国滞在中に幾つかの河川の自然環境に関する研修を受けてきました。本報ではその中から“Stream Corridor Restoration”という4泊5日の研修を取り上げ、その様子や内容を紹介したいと思います。この研修は、米国の“Fish & Wildlife Service”が米国東部のペンシルバニア州に建設した研修所で実施している研修の一つで、他にも野生生物に関する様々な研修を受けることができます(他の研修については、ホームページhttp://www.nctc.fws.gov/index.htmlを参照してください。本当にいろいろな研修があります)。研修は誰でも受講料さえ払えば参加できます。私が受けた研修も政府関係者、NPO、民間コンサルタントの方と様々な顔ぶれから構成され、受講料は一般の人は確か800USドル程度だったと記憶しています。さて、講習の内容ですが、そもそも、Stream Corridor(コリドー、「回廊」と訳される場合がある)とは、川とそこに隣接して広がる氾濫原、そして、氾濫原に隣接する山々のスロープを含めた概念で、日本には適当な語訳がありません。ここでは、ストリームコリドーとそのままカタカナ読みにしておきます。講習は、1冊の分厚いテキストブックを中心に進められました。このテキストは米国の様々な機関が連携して取りまとめた教科書で、ストリームコリドーの概念、関連する水文・水理・地形・生物・水質等の基本的な事項、具体的な復元工法、そして、実際に復元事業を実施する際に適当な組織論や予算の確保まで様々な内容が含まれています。各分野の既往の知見をよくレビューし上手に取りまとめていますから、日本でも大いに参考になる資料だと思いました。実際の研修は、7割程度が講義、2割がグループに割り当てられた宿題のディスカッション、1割が復元事業を実施しているサイト視察、といった割合で行われました。日本の講義と異なる点は、5人程度の講師陣が研修中に全ての講義を研修生と共に聴講している点です。説明が不適切であったり、内容が不十分であったりすると研修生の背後にスタンバイしている講師陣がすかさず補足の説明をしてくれます。講師陣を長期間拘束する必要から、ストリームコリドーに関する高度な専門知識を有する超一流の講師陣を揃えることはできませんが、その代わりに、広範囲な内容を短い時間でバランスよく講義するプログラムとこれを実施するための講師陣に対する十分な訓練が、能率的な研修を可能にしているようです。4泊5日という短い時間ですから、ストリームコリドーに関する全ての知識を習得することは不可能ですが、ストリームコリドーの復元に必要な用語や概念等を様々な人たちの中で共有するという目的は十分達成されているように思えました。
米国では、このような政府機関による研修だけでなく、民間コンサルタントも自前で研修を実施している場合が少なくないようです。次回のコラムではこの一事例として、コロラドのスキーリゾートシルバーソンで受講した河道地形学の研修について報告したいと思います。
萱場祐一
(独)土木研究所 水循環研究グループ河川生態チーム