魚類生息場所の分布と構造
実際の川に行って流れを観察すると、流速が大きいところ、小さいところ、水深が大きいところ、小さいところと実に様々な形態をとって流れていることが分かります。このような流れの形態の違いは、主に出水時の流水と流砂との相互作用で河床に起伏が造られることから生じるもので、流れが速くて浅いところが瀬、流れが遅くて深いところが淵と呼ばれます。この瀬や淵とでは魚類の生息場所(habitat)としての機能が異なり、例えば、瀬はアユのような遊泳力の強い魚の生息、採餌の場、淵では水深が大きいため魚類の隠れ場所となります。
これまで魚類生息場所の調査というと、技術者や研究者が形態的特長にもとづき経験的に区分し、分布を把握するという方法が多くなされてきました。しかし、このような方法では、洪水や河川改修の影響による生息場所の微妙な変化を十分に評価することは困難でした。水深、流速、水面や河床の勾配等定量的にハビタットの変化を把握することが必要となっています。
自然共生研究センターでは、実際の河川において縦断測量や横断測量を組み合わせた調査を行い、生息場所の分布や構造に関する研究をはじめています。これまでに中小河川中流域を対象として調査したところ、早瀬や淵といった各生息場所は、概ね一定の水深、流速及び水面勾配といった物理量を有しており、河川による構造の違いはそれほど大きくないことなどが分かってきました。また、川の曲がりや砂州の付き方により瀬・淵の分布や構造が異なるようです。まだまだ明らかにすべき事象は多いですが、今後、河川環境の定量的評価を行う上で重要な視点となるでしょう。
千葉武生
(株)建設技術研究所 東京本社 文化技術センター 環境部/
前 (独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム 交流研究員