魚の子供たちの棲んでいる場所
川の魚のすみかとして、水際の植物や深みなどが大切だといわれていますが、そういった報告の多くは、成魚(大人)や未成魚(ほぼ大人)についてのものです。では、仔魚(新生児)や稚魚(幼児)は、どんな場所に棲むのでしょうか?渓流で生まれるサケ・マス類は、Lateral habitatと呼ばれる大石や流木で水流の流れが抑えられる凹形状の浅い水際に棲んでおり、大きくなるにつれて深くて流れの速い部分にも泳ぎ出ていきます。Lateral habitatには、有機物や餌となる底生動物が多くみられると共に、捕食者である大型の魚が入ってきません。
我々に身近な川で良くみかけるオイカワやタモロコなどのコイ科魚類も、サケ・マスと同様にLateral habitatを利用します。しかし、彼らの生息する川には山地渓流と違って大石や倒木があまりないので、Lateral habitatは地形の凹凸により形作られる場合が多いようです。川の中・下流域にみられる大きな凹形状の入江はワンドといわれ、ここには多くの稚仔魚が棲んでいます。おもしろいことに、ワンド内の深場と浅場では、生息する魚の種類が異なってくることが示唆されています。さらにワンドは、大水が出た時の稚仔魚の逃げ込み場所としての役割も果たしており、実験河川を用いた研究では、増水時に多くの仔魚がワンド内に集まってくる現象がみられています。
稚仔魚の生息場所は、河岸の地形をまっすぐにする改修工事により失われ易い環境です。成魚や未成魚が棲み産卵できる環境も重要ですが、生まれた子供らの保育器やゆりかごとしての環境にも目を配ることが大切です。少子高齢化が問題視されている我々人間社会だけではなく、魚社会でも子供達が安心して生息できる川のバリアフリー化を進める必要があります。
佐川志朗
(独)土木研究所 自然共生研究センター