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川と共に 20世紀型技術と多自然川づくり

 川の自然環境の保全・復元を目指した多自然型川づくりがはじまってちょうど10年になります。10年間、この試みにつきあってきましたが、20世紀に目覚ましく発展してきた工業や工学の技術とは本質的に異なる環境技術であることを強く感じます。この技術は、生物すなわち人間以外のもののための技術です。20世紀はある意味で人間の力が強大になった世紀であり、人間が主役の世紀です。工業や工学の技術も人間のための技術であり、そのための体系が形づくられてきました。

 一方、多自然型川づくりは生物のための川づくりが基本であり、主役は生物であって人間ではない。本質的には人間中心主義からの脱却という課題をもっています。また技術体系が異なります。これまでの技術は人間が意図したものを意図したとおりに作る技術です。しかし、川の自然環境保全のための技術は、人間は大きな骨組みやきっかけを作るだけで、あとは川が川を形づくっていく。必ずしも人間の意図したものができるわけではない。すぐに大きな洪水が来る場合と小さな洪水しか来ない場合では川の形は異なるかもしれません。しかしながら、生物が生きていく環境は整っている。そういう技術です。

 技術者に求められているのは、そこの自然の仕組みを理解し、再現する能力であって自分の独創力を誇示する能力ではない。したがって人間は黒子であってデザイナーは川である。誰それのデザインというような人間が全面に出る技術とは全く異なります。技術の体系自体も人間中心ではなく自然中心であり、いわば環境技術といえるものです。次の世紀をこのような考え方の技術がリードすることを期待したいものです。


島谷幸宏

建設省土木研究所