生物の摂食と河床の健全性
近年、流量が人為的に制御されている区間、例えばダム下流の河床では、しばしば有機物やシルトの堆積や付着藻類の大量繁茂等が生じ、景観や生物の餌資源としての質の低下が指摘されています。その要因として、流量(流速)の減少や流況の平滑化があげられる他、生物生息場の変化に伴い生物相や生息密度が変化し、河床付着膜が生物に摂食されなくなったことがあげられます。
自然共生研究センターでは、生物の摂食によって河床の健全性が維持される機能に着目し、これを河川流量管理に反映するための研究を行っています。生物による摂食が河床付着膜の量・質及び生産性に果たす役割を解明するため、代表的な藻類食者であるアユを対象に実験を行ったところ、アユに摂餌されている藻類は、生きている藻類の割合が高く、生産性が高いこと等が把握されました。また、アユの摂餌は、糸状緑藻の繁茂を抑制させる効果があることが確認されました。さらに、アユが生息している河床は、生息していない河床と比べ、視覚的にもきれいに見え、河川景観の維持にも寄与していることがわかってきました。
日本書紀や万葉集にも登場し、古くから日本人に親しまれてきたアユ。現在においても日本の河川の代表的な水産資源であるだけでなく、河川生態系においても、大きな役割を担っていることを再認識しました。今後も、河川の生態系が成立している仕組みを一つずつ紐解き、得られた知見を、河川生態系の保全・再生に役立てられるよう、研究を進めていきたいと考えています。
皆川朋子
(独)土木研究所 自然共生研究センター