砂が流れることの重要性
ダムは水を貯めると同時に、土砂も貯めてしまうことから、ダム下流部では流されやすい細粒土砂(砂)が欠乏することが多くあります。そのため、近年では、ダム湖に土砂を貯めない対策が考えられ、ダム下流部に土砂を供給する様々な取り組みが進められています。しかし、土砂をダム下流部に供給する際、シルトが大量に流れ出る恐れがあります。シルトは、砂よりも小さいのですが付着藻類に絡まるようにして、礫表面に堆積する可能性が指摘されており、付着藻類を餌として食べるアユなどの河川生物に対して、シルトの堆積による影響が懸念されています。そこで、細粒土砂をダム下流部に流す際、シルトの堆積を防ぐにはどのようにすれば良いか、流速と砂に注目して実験を行いました。
最初に、実験河川にタイルを沈めることで、付着藻類を生長させました。その後、循環型水路内に、シルトのみ、砂のみ、シルトと砂を含む3種類の流水環境を作成し、付着藻類が定着したタイルを水路内に設置しました。水路内の流速を、速い場合(4.0m/s)と遅い場合(0.5m/s)の2段階に設定し、24時間、各条件の流水環境にタイルを曝しました。
実験の結果、シルトのみを含む流水環境下では、付着藻類にシルトが多く堆積しましたが、砂のみを含む場合やシルトと砂の両方を含む場合は、シルトの堆積はわずかでした。また、速い流速と遅い流速とで比べると、速い流速の方がシルトの堆積は少なくなっていました。つまり、ダム下流部に細粒土砂を供給する際、シルトのみが流れることは好ましくなく、砂も一緒に流すようにすることで、付着藻類をアユなどの河川生物の餌として良好に保つことができることがわかりました。今後は、細粒土砂を供給することで、アユなどの生物がどのような反応を示すかについても着目し、研究を進めて行く予定です。
森照貴
(独)土木研究所 自然共生研究センター