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寄生虫から見た生態系

 どんな動物でも、さまざまな寄生虫が体内や体表面についています。たとえば、自然共生研究センター実験河川の魚たちには原虫(アメーバの仲間)、条虫(サナダムシの仲間)、吸虫(ジストマの仲間)、線虫(回虫やアニサキスの仲間)、甲殻類(イカリムシなど)などが寄生しています。

 これらの寄生虫は魚の体を住み家としていますが、実は、大半の寄生虫にとって魚は一生のうちの一部分だけを過ごす場所であるに過ぎません。寄生虫のほとんどは生活環に2~3種の宿主生物を必要とし、食物連鎖などを通して次の宿主へ移動する性質を持っています。エキノカスムスという寄生虫が実験河川のモツゴなどに寄生していますが、この虫は木曽川にいるカワニナ類からモツゴへ感染し、最後はサギなどの鳥類に食べられて、その腸内で成虫に発育します。このような寄生虫が生息するには、環境の中に宿主生物が揃って生息していなければなりません。

 さらに、寄生虫が生存するためには、宿主生物の間に正常な食物連鎖が保たれている必要があります。たとえば、トキのように絶滅危惧種を保護するために完全人工飼育にしてしまうと、たとえ宿主生物は保護できたとしても、その寄生虫は生活環を断たれて絶滅してしまいます。また、宿主生物が人の与える餌や残飯に依存するようになった場合にも、寄生虫の生存は脅かされます。

 以上のような性質から、寄生虫は健全な生態系の指標として使用できる可能性を持っています。通常の指標生物は富栄養化や環境毒性の目安となるものですが、寄生虫の場合はハビタットの広さ、分断の程度、自然の食物が得られるかどうかなど、宿主生物が生息するためのすべての条件の総合的な指標であると考えられます。


浦部美佐子

(独)土木研究所 水循環研究グループ 河川生態チーム

モツゴと、モツゴに感染する
寄生虫エキノカスムス。