研究の紹介

微生物が土を固める!?
 〜微生物を利用した土の改良〜


図1 微生物を利用した土の改良のしくみ

写真1 微生物を利用して土を固めた状況

図2 用途イメージ

土(つち)の改良について
 「土(つち)」は、私達が普段通っている道路や橋、生活している建物や地下にある下水道管などを支える役割を果たしています。
 しかし、土は自然のままの状態では、こうした役割を十分に果たすことができない場合も多く、そのような場合は土の改良が行われます。例えば、強さが不足して建物などを支えられない場合や、地震によって土が水のような状態になる可能性がある場合です。

微生物による土の改良技術の開発
 土の改良方法の1つとして、微生物の活動による方法の利用が期待されます。
 そのしくみは、土の中に生息する微生物の呼吸で排出される二酸化炭素(CO2)と土の粒の隙間に存在するカルシウムイオン(Ca2+)を反応させることでできる炭酸カルシウム(CaCO3)を利用するものです。炭酸カルシウムは鍾乳洞(しょうにゅうどう)など、自然の活動でもできる硬い物質です。炭酸カルシウムが土の粒同士をつなげる接着剤のような役割を果たすため、土が固まり、強くなります(図1)。
 そこで重要なのが、微生物の活動を盛んにして炭酸カルシウムが多く作られるようにすることです。そのために地盤に栄養塩を添加します。つまり、微生物にエサを与えて元気に活動してくれるようにします。
 微生物の生息する環境(微生物の種類や量、土の性質など)やエサの与え方(栄養塩の添加方法など)によって土の固まり具合(炭酸カルシウムのできる量)に違いが出てくるため、土を固めやすい条件はどのようなものか、実験により検討しています(写真1)。

土の改良技術としての今後の期待
 こうした土の改良方法は、改良したい土の上に道路や建物がある場合でも利用可能な技術として期待されます。また、下水道管を埋めるときに使って地震時に管の周りの土が水のような状態になり、その土の中に管が浮き上がるのを防止する材料等、幅広い用途が期待できます(図2)。



(問い合わせ先:土質・振動チーム)

吹雪時の安全走行を支援する 〜吹雪視程障害に関する研究〜


視程板。10m〜255mの距離に
9枚の板を設置

被験者による視程の評価。視程板の見える
枚数と、その時の視程計の計測値を比較


「距離と時間検索」の結果への
経由する市町村の視界情報の提供
(http://time-n-rd.jp/)

吹雪時の視程の評価
 北海道のような積雪寒冷地では、非常に滑りやすい雪氷路面や降雪、吹雪による視程障害など、冬期道路の走行環境は大きく変化し、時として通行止めや多重衝突事故の発生など、ドライバーは非常に厳しい環境下での走行を強いられています。
 このため、道路管理者により防雪柵や防雪林、視線誘導施設等の整備、カメラ画像や気象データ等の情報提供、通行止めなどの措置が行われており、その際に、吹雪時の視程が調査・把握されています。
 しかし、現在道路に用いられている視程は気象学上定義されたものであり、道路交通に必ずしも適した視程の計測や評価が行われていないという課題があります。
 寒地土木研究所雪氷チームでは、道路交通により適した吹雪時における視程の計測手法や評価方法の提案に向けて、ドライバーが吹雪時に感じている視程について研究しています。

吹雪の視界情報の提供
 北海道は主要な都市が広域に分散しており、都市間の移動には長い時間を要しがちです。特に冬期には、気象状況や沿道環境、道路構造の変化によって、路面や視界の状況は大きく変化します。
 このように様々に変化する冬期の走行環境の中で、ドライバーにより安全に走行してもらうため、冬期道路における走行環境やその情報提供が、ドライバーの走行速度や走行の安全性・安心感に及ぼす影響などについて調査研究を行い、冬期の走行環境の情報提供方法について検討を行っています。
 情報提供の一つとして、今冬期から、北海道の道路情報総合案内サイト「北の道ナビ」の主要なコンテンツ「距離と時間検索」の検索結果において、経由する市町村ごとに、吹雪の視界情報の提供を試行的に開始しました。
 このシステムは、吹雪の視程障害の研究結果をもとに、気温や風速、雨量などの気象データを用いて吹雪時の視程を演算して推定し、その結果から、経由する市町村ごとの平均的な視程を5段階に判別して情報提供を行っているものです。
 今後も利用者のアンケート調査や、視程の推定精度の検証を行い、システムを改善していく予定です。



(問い合わせ先:寒地土木研究所 雪氷チーム)

山地河道における流砂に関する研究 〜河床に点在する大きな石の効果について〜


図1 土砂循環装置付可変勾配水路

図2 大きな石の敷設状況
(case0は0個/m2

 ダムには水とともに砂や石が溜ります。ダムに砂や石が溜まると水を溜める容量が少なくなるので貯水機能を十分に果たせなくなります。ダムの貯水容量を回復もしくは維持するために、河川・ダム水理チームではダムに溜まった砂を下流に流す技術を研究していますが、将来的には砂だけでなく、石も下流に流す必要があります。ダムによって止められた石、特に大きな石が下流河道へと供給された時、河道の形状はどのように変化するのか、粒度分布はどのように変化するのかなど、流砂に関する現状の技術では明確に答えることができない課題が存在します。
 ダムが建設されるような山間部を流れる河道を山地河道と言います。その特徴としては、河床に露出する岩盤、点在する大きな石などが挙げられます。点在する大きな石は、山腹や河岸から崩壊した砂礫が直接河道に供給されたものであることが多く、その結果として区間ごとに粒径が大きく異なっていることもあります。このような山地河道における流砂現象については上述したように未解明な点が多く、大きな石が点在する場での流砂量を表現するモデルの開発、流砂の実態を把握するための現地観測などが各所で進められています。そこで、ダムが建設されるような山地河道を対象とした水路実験を行い、点在する大きな石の流砂に与える影響を確認しました。
 実験には、図1に示す長さ30m、幅1m、高さ0.8mの土砂循環装置付可変勾配水路を使用しました。土砂循環装置付とは、水路下流端まで流送された土砂をベルトコンベアによって運搬し上流端から投入することで、長時間の安定した実験を可能にした水路です。水路には平均粒径15mmの砂礫を厚さ0.2mで敷設し、図2に示すように徐々に大きな石の割合を増やし、水路勾配1/100、水深0.3mとして通水した時の流砂量を計測しました。Case5、 6は点在するような状態ではありませんが、極端なケースとして設定しました。大きな石の粒径は100mmであり、上記の通水条件では流送されません。結果として、河床表層1m2あたりに3個の大きな石を敷設しただけで、大きな石を敷設しなかった場合の流砂量が25%程度減少しました。今後、評価結果の妥当性、河道形状に与える影響など、さらに検討を加える予定です。



(問い合わせ先:河川・ダム水理チーム)