研究成果の紹介

泥炭性軟弱地盤対策工マニュアルを改訂しました


北海道で採取された繊維質な泥炭
北海道で採取された繊維質な泥炭

泥炭地盤上に造られた盛土が壊れた事例
泥炭地盤上に造られた盛土が壊れた事例

1.泥炭性軟弱地盤とは

  寒冷な地域には、「泥炭(でいたん)」と呼ばれる非常に軟弱な土が広く分布しています。泥炭は、沼とか湖などの湿地に生えているヨシやスゲなどの植物が、枯れて倒れて積もってできたものです。温度が低い、地下水位が高いといった環境の下、枯れた植物が十分に分解されないまま、長年にわたって積もって厚みを増していきます。わが国では、北海道や東北地方にまとまった面積の泥炭地が見られますが、規模の小さい泥炭地は、全国各地に散在しています。

  北海道でよく見られる泥炭の厚さは3~5m程度ですが、通常、その下に軟らかい粘土が堆積しています。この粘土の厚さは20mを超えることも珍しくありません。このように表層部に泥炭が存在し、その下に軟弱な粘土が厚く堆積した地盤のことを「泥炭性軟弱地盤」と呼んでいます。泥炭の特殊性に加えて、厚い軟弱粘土の存在が、泥炭性軟弱地盤の扱いをより難しくしています。



2.泥炭の特徴

  泥炭は、植物繊維が互いに絡み合いながら、ヘチマのような海綿状の組織を形成しています。一般的な土からはおよそかけ離れた特殊な土といえます。泥炭にはすき間がたくさんあって、そのすき間にはたっぷりと水が含まれています。このため、わずかな荷重が載っただけでも大きな沈下を生じます。さらには、その沈下が長期間にわたって継続して発生するという問題があります。また、泥炭は強度が極めて小さいため、土を盛り上げたりするとその重さに耐えられなくなって壊れてしまうこともあります。



3.泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル

  このように泥炭は、極めて特殊な性質を持っているので、試験調査や解析に通常の方法が使えません。そこで、これまでに得られた多くの経験と研究成果を整理し、調査・設計・施工の標準的な考え方をまとめ、「泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル」として平成14年3月に発刊しました。さらに、その後も研究・技術開発を継続し、平成29年3月に本マニュアルの改訂を行い、新しい対策技術や地震時の検討に関する最新の知見の普及を図っているところです。本マニュアルは、寒地地盤チームのホームページからダウンロードできます(http://jiban.ceri.go.jp/pm/)。

  寒地地盤チームでは、引き続き泥炭性軟弱地盤に関する研究を行い、現場に役立つ技術の発信に努めていきたいと考えています。



(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地地盤チーム)

排水機場ポンプ設備における状態監視診断技術


写真-1  排水機場ポンプ設備の全景
写真-1  排水機場ポンプ設備の全景

写真-1  排水ポンプ設備の減速機
写真-1  排水ポンプ設備の減速機

写真-2  SPM計測器
写真-2  SPM計測器

写真-2  減速機軸受の計測状況
写真-2  減速機軸受の計測状況

1.目的

  排水機場ポンプ設備は、洪水被害を防止するための極めて重要な施設であり、非常時には確実に稼働することが求められます。そのため、これまでも定期的に整備が行われてきましたが、限られた予算の中で、効率的で効果的に維持管理を行うためには、各機械の状態を監視して正確に診断する技術が必要となります。ここでは、排水機場ポンプ設備の中で重要な設備で状態監視診断が難しいとされる減速機(写真-1)の軸受について、SPM(ショックパルス測定)法を用いた診断技術の適用性を検証しましたので、その成果の一部を紹介します。



2.試験概要

  減速機の軸受が損傷を受けると、一定の回転数で回転する場合に周期的な振動が発生します。この振動を解析することで、軸受の不具合箇所を推測することが可能となります。しかし、排水機場で稼働する減速機の軸受は、軸の回転数の低さとポンプ設備全体から発生する様々な振動の影響を受けていることなどから、加速度計では診断が難しい状況でした。 そこで、軸受状態監視診断手法のひとつであるSPM法が、排水機場の減速機の軸受に適用できるか検証を行いました。試験は、北海道内の設置後40年を経過した排水機場に設置されている減速機の軸受で行いました(写真-2)。



3.試験結果

  試験を行った減速機は、出力側の回転数が150rpmと非常に低く、これまで加速度計による軸受の診断が行えませんでした。しかし、図-1に示すようにSPM計測器による測定では、特徴的な周波数を確認することができ、状態監視診断に適用できる可能性があることがわかりました。

  今後は、SPM計測器と合わせて、損傷箇所から発生する弾性波を計測するAE(アコースティックエミッション)計測器など、様々な診断手法を組合せた排水機場ポンプ設備の総合的な状態監視診断技術を検討していきます。


図-1  減速機軸受の出力側周波数解析結果
図-1  減速機軸受の出力側周波数解析結果


(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム)