研究の紹介
アイスジャムによる河川災害と減災への取り組み
寒冷地の河川は寒さが厳しい冬期間は凍り、春になると気温上昇とともに解氷が進みます。解けた氷は下流に流れますが、川の中で氷が詰まって流れをせき止める「アイスジャム現象」が発生することがあります。2018年3月には、北海道内の多数の河川でアイスジャムが同時発生し、複数の河川で水位急上昇や浸水、流下する氷への巻き込まれなどが発生しました。
寒地土木研究所では、北見工業大学と合同でアイスジャム発生箇所での現地調査を行い、発生のメカニズムを検討しました。調査結果より、以下のプロセスによりアイスジャムが同時発生したことを解明しました。
(1)アイスジャム発生前日から当日にかけ、温帯低気圧が発達しながら北海道を通過したことにより、気温急上昇と季節外れの降雨が重なり、解氷進行と河川増水が広範囲に同時発生した。
(2)その結果、解氷した河氷が急激に流下し、川の中で流速が遅い箇所では氷が集積してアイスジャムが発生した。
![]() |
![]() |
アイスジャムによる河川災害の被害軽減策として、アイスジャムの発生危険性が高くなる時期および場所を、事前に予測できる技術が有効と考えられます。寒地土木研究所では、北見工業大学との共同研究により、実務利用を想定したアイスジャム発生予測手法の開発を進めています。
発生時期の予測については、気象データや河川水位データを用い、河川の任意の地点における河氷の厚さを時間連続で予測計算可能なプログラムを開発しています。プログラムは汎用PC上で稼働し、HPなどで一般に公開されている気象および河川水位データを予測に用いることが可能です。アイスジャム発生が見られた道内河川を対象に河氷厚予測精度やアイスジャム発生時期の検証を進めています。今後、冬期の河川管理や河川工事の現場における試験運用なども進め、河川管理や防災への実務利用の普及を目指します。
![]() |
![]() |
(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地河川チーム)
短時間多量降雪に伴う雪崩の発生頻度に関する研究
研究の背景
雪崩対策を実施するためには、過去の雪崩災害履歴や現地における積雪や地形・植生の調査により対策の必要性を検討して、その箇所で発生する雪崩の規模と頻度を評価することが重要です。しかし、雪崩の長期観測が行われることは過去に大規模雪崩が発生した箇所などに限られており、多くの場合雪崩の発生頻度を直接評価することは困難です。そこで、本研究では、短時間多量降雪に伴う雪崩発生の気象条件を満たす事例を過去の気象データから抽出して、その発生頻度を推定する手法を検討しました。詳しくは、寒地土木研究所月報(令和元年5月)「雪崩発生条件を満たす降雪事例の頻度解析」をご覧下さい。
方法
気象データを用いた雪崩の発生頻度解析の試みとして、図-1の短時間多量降雪時の雪崩発生条件に着目しました。図-1は降雪期間中で最も降りの強い12時間の降雪深と気温の関係です。図-1の●で示すように、短時間多量降雪時には普段は雪崩が発生しにくい樹林内でも雪崩が発生します。この雪崩発生条件は、12時間の降雪深が45cm以上で、降雪期間中の平均気温が-4℃以下(条件①)となります。斜面の勾配などによっては、降雪深50cm以上が条件になる場合もあります。さらに、ある程度の積雪の存在(積雪深が50cm以上(条件②))も雪崩発生に重要です。よって、過去の気象データから、12時間降雪深を計算して、条件①と②を満たす事例を抽出しました。
次に、抽出した事例の降雪深を5cmごとに集計します(図-2の棒グラフ)。そして、降雪深の大きい階級から事例数を累積した値を観測年数で除して、これを発生頻度(図-2の線グラフ)と定義します。この発生頻度の意味は、任意の12時間降雪深が図-2の横軸に示すScm以上となる事例の1年あたりの発生回数です。
![]() |
![]() |
結果
図-3は、12時間降雪深とその発生頻度の対数の関係に対して解析した結果の例です。発生頻度の対数をとることで、降雪深との関係を直線で表すことができます。図中に示す解析で得られた式は、観測値との対応が非常によいことがわかります。よって、この式を使って、12時間降雪深が45cm以上あるいは50cm以上となる事例(図-1の雪崩発生条件を満たす降雪事例)の発生頻度を高い精度で推定することができます。
成果の活用
同解析を気象庁アメダスと北海道開発局道路テレメータ(計297箇所)で実施し、短時間多量降雪に伴う樹林内での雪崩発生頻度の地域分布(雪崩発生危険度図)として提示しました(図-4)。本研究により、従来発生しにくいと考えられてきた樹林内における雪崩の発生危険度の評価が可能になりました。
![]() |
![]() |
(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 雪氷チーム)