研究の紹介

越水に対して粘り強い河川堤防の技術開発に関する研究



写真-1 那珂川水系那珂川 右岸28.6k 堤防決壊状況 1)に加筆

写真-1 那珂川水系那珂川 右岸28.6k
堤防決壊状況
1)に加筆



図-1 代表的な自立型の構造 2)に加筆

図-1 代表的な自立型の構造 2)に加筆


  令和元年台風第19号では、全国で142箇所の堤防が決壊しました。このうち、越水が決壊の主要因と推定されるものは86%でした。写真-1は、この台風で越水により決壊した那珂川河川堤防の決壊状況です。ここで、越水とは、河川の水位が堤防の高さを超えて堤防の外へ河川の水が流れ出してしまう現象を指します。 令和元年台風第19号の被災を受け、国土交通省では、越水に対して粘り強い河川堤防の技術開発を進めています。


  越水に対して粘り強い河川堤防の一つと考えられている構造に、自立型(自立式特殊堤を含む)があります。自立型は、図-1のような堤防内に鋼矢板を打設するもの(図-1(a))や、堤防内にコンクリート擁壁を設けるもの(図-1(b), (c), (d))等が考えられています。 土質・振動チームは、自立型の構造について、国土交通省国土技術政策総合研究所河川部河川研究室と共に、今後の粘り強い河川堤防(自立型)の技術開発に当たっての参考となるよう、「粘り強い河川堤防の技術開発に当たっての参考資料【自立型】」(以下、参考資料)(図-2)にまとめ、令和4年12月に公開しました。

 

  加えて、当チームでは、令和4年度より、自立型の構造について、越水による破壊の仕組みを調べるため、水理模型実験を行っております。令和4年度は、自立型のうち、鋼矢板二重壁構造について、小型水理模型実験を行いました。堤体高100mmの堤防模型を作製し、越水による堤防模型の破壊挙動を調べました(写真-2)。 今後は、越水による破壊の仕組みをより細かく調べる予定です。



  参考文献
    1) 令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会:資料2-2 国管理河川の決壊要因(堤防調査委員会の検討), p.9.
    2) 国土交通省国土技術政策総合研究所河川部河川研究室,(国研)土木研究所地質・地盤研究グループ(土質・振動):粘り強い河川堤防の技術開発に当たっての参考資料【自立型】, p.8.




図-2 参考資料

図-2 参考資料
写真-2 小型水理模型実験の様子

写真-2 小型水理模型実験の様子





(問い合わせ先 : 地質・地盤研究グループ 土質・振動チーム)

3D浸水ハザードマップ作成技術の活用

図-1 3D浸水ハザードマップ

図-1 3D浸水ハザードマップ

(上:Google Earthで札幌駅周辺の浸水状況を描画、
下:Google Street Viewで札幌市内の
中島公園付近の浸水状況を描画)


 毎年全国のどこかで発生する洪水被害に対して、洪水ハザードマップは住民の避難時に有益な情報ですが、全ての方に必ずしも正しく認識されているわけではありません。寒地河川チームでは、Google EarthとGoogle Street Viewを活用して、理解しやすく利用しやすい3次元で表示できるハザードマップを作成することを提案しており(図-1)、作成用ソフトウェアとマニュアルを無料公開(図-2)するとともに普及活動を行っています。 このマップの特徴は、想定される浸水状況を周辺の建物と比較することで直感的に把握できることです。

 毎年全国各地で土木研究所が主催する土研新技術ショーケースや他機関が開催する防災関連の展示会で講演を行っているほか、北海道内の総合水防演習をはじめとした数多くの各種防災イベントでも紹介を行い、このWEBマガジンでも2021年12月に紹介しました。

・研究成果の紹介|国立研究開発法人土木研究所Webマガジン -PWRI-

 それらの普及活動で分かってきた課題などについて、寒地土木研究所月報の2023年2月号でお知らせしています。

・3D浸水ハザードマップの概要 ~メリット及び活用事例~

・3D浸水ハザードマップの活用時の留意点

・3D浸水ハザードマップの描画の仕組み

 当マップに残された課題としては、

 ・Google Earthでは、大都市及びその周辺において建物を含めた街並みが3D表示されていますが、それ以外の地域では2D表示のままとなっている場合が多いため、建物と浸水深を比較して見ることができない地域が多いこと

 ・当技術は、浸水深を表す立体図形の水面部分をGoogle Earth上で描いているので、Street Viewで見たとき、浸水深が大きい場合には見上げた空に壁があるように見えて、それより下には水が無いような表示になるため、表示の仕方を理解していないとイメージが湧かないこと(図-3)

などがあります。

 このような説明が無い状態で3D浸水ハザードマップを見たときには違和感を持つことになりますが、説明を聞いた上でこのマップを見た場合には、それほど気にならないものと考えられます。このため、例えば、注意事項を説明した上で、防災教育の現場で活用するような使い方が考えられます。

 従来のハザードマップとともに、3D浸水ハザードマップも利用されることによって、浸水リスクへの理解が深まり、洪水時の避難行動に繋がることを期待しています。



図-2 3D浸水ハザードマップ作成のマニュアルとソフトのダウンロード画面

図-2 3D浸水ハザードマップ作成の
マニュアルとソフトのダウンロード画面
図-3 浸水深が大きい場合のStreet View上での浸水深の表示例

図-3 浸水深が大きい場合の
Street View上での浸水深の表示例




(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地河川チーム)

赤外レーザーによる遠隔融雪技術の開発

図-1 着雪除去作業の実際の写真

図-1 着雪除去作業の実際の写真

図-2 光の波長と氷の融解に関する係数の関係

図-2 光の波長と氷の融解に関する係数の関係
  図中添字a, b, cは本研究で利用したレーザーの波長


 積雪寒冷地では、降雪や吹雪により道路案内標識等(以降、道路インフラとする)に着雪することがあります。道路インフラに着雪した氷雪が成長し落下すると、道路交通車両等への被害が発生することがあります。この被害を未然に防ぐため、道路管理者は定期的に着雪除去作業(図-1)を実施していますが、この着雪除去作業の手間やコストが道路維持管理上の負担となっています。 特に高所作業車等を利用しなければ除雪作業ができない箇所に付着した氷雪を効果的に取り除く着氷雪除去技術が求められています。そこで、寒地土木研究所では長距離を伝搬することが可能なレーザーを利用した着氷雪の融解技術を開発しました。


 レーザーには多種多様な光源が存在します。雪を融かす最適な波長を明らかにするため、光と氷の基礎に立ち返り、検討することにしました。たとえば、遠赤外線ランプの前に立つと温かく感じます。これは、人の皮膚にある水分が遠赤外線の光を吸収して振動し、熱が発生するためです。 雪や氷が良く吸収する特定の光の波長を明らかにすれば、雪や氷を融かすための最適なレーザー光源を知ることができます。


 そこで、3波長のレーザー光源を利用して、氷が融ける速度を測定した結果をもとに、1μm~100μm(μm = 10-6m)の波長における氷の融解速度に関する係数を明らかにしました(図-2)。この結果から、波長10.6μmのCO2レーザーと波長2.85μmのEr:ZBLANファイバーレーザーが適した光源であることが分かりました。 高出力化が可能なCO2レーザーは古くから市販されているため、本研究ではCO2レーザーを利用し、屋外で融雪試験を実施しました(図-3)




図-3 屋外用レーザー融雪装置による融雪試験の様子

a)試験方法の概要図、b)高さ約5 mの仮設工に設置した屋外用レーザー融雪装置、c)およそ100 m離れた箇所から撮影した仮設工、
d)コンパネ合板に貼り付けた雪、e)レーザー照射後(赤色の点はHe-Neレーザー光(ガイド光))  
 ※試験に利用したCO2レーザーは波長10.6μmで最大出力100Wの光源である。人体の皮膚がレーザー光線に接触すると、火傷等を伴う危険性がある。そのため、本試験はb)に掲載した消防用の防火服、および保護メガネを着用して実施した。


図-4 雪の融解速度と距離の関係

図-4 雪の融解速度と距離の関係
(雪面の雪密度346 kg/m3のとき)
回帰線 V=0.16 exp(-0.022x) (V:融解速度、x:距離)




 寒地土木研究所の試験フィールド(北海道石狩市)に建てた高さ5mの仮設工から斜め下方の雪面に向けてレーザーを照射したところ、距離が近くなるほど融解速度が速くなる結果となりました。 また100m先の雪を融かすことも可能であることを明らかにしました(図-4)


 本研究で利用したレーザー光源の最大出力は100Wですが、より出力の高い光源を利用すればより速やかに道路インフラに着雪した雪を融解することは可能であろうと考えられます。












(問い合わせ先 : 寒地土木研究所  雪氷チーム)

高耐久性鋼材を活用した鋼橋の長寿命化技術に関する研究

1.はじめに

 鋼橋の代表的な損傷である腐食(写真-1)は、橋の性能を低下させる要因のひとつとなります。腐食の対策として、塩分などの劣化因子の侵入を防ぐために、塗装により部材を被覆する方法が多く用いられています。しかし、塗装は紫外線等により経年劣化するため、塗り替えにより定期的に更新する必要がありますが、塗り替えによる維持管理費用が大きな課題となっています。 また、狭隘部などでは、塗り替え自体が困難という課題もあります。そこで、無塗装でも高い防食性を有するステンレス鋼を活用し、鋼橋の腐食した部材の更新技術の開発を行っています。なお、部材の更新を想定しているため、単体で交換可能な部材(対傾構や横構といった二次部材)を対象としています。

写真-1 鋼橋の腐食の例

写真-1 鋼橋の腐食の例


2.ステンレス鋼を鋼橋の部材に用いるための性能確認

 ステンレス鋼は、通常、鋼橋に用いられる鋼材料(以下、「普通鋼」という。)と比べて、材料としての性質が異なるため、鋼橋の対傾構や横構といった特定の部材にステンレス鋼を使用した場合の性能(耐荷力)を把握する必要があります。そこで、ステンレス鋼を用いて対傾構や横構を想定した試験体を製作し、耐荷性能の確認実験を行いました(図-1)。 その結果、ステンレス鋼を用いた試験体の耐荷力は、過去に実験で確認された普通鋼の試験体の耐荷力と同程度であることを確認しました。また、ステンレス鋼の実験結果は、普通鋼を対象に設定されている山形・T型断面の耐荷力曲線(図-2の点線)よりも高く、安全側の評価となっていることを確認しました。
 

図-1 部材試験の実施状況

図-1 部材試験の実施状況
図-2 ステンレス鋼と普通鋼の耐荷力の比較

図-2 ステンレス鋼と普通鋼の耐荷力の比較


3.ステンレス鋼と普通鋼の接触による腐食への対策

 金属材料は、電位差のある異なる種類の金属同士が接触すると、腐食が生じます(写真-2)。これを異種金属接触腐食と言います。ステンレス鋼と普通鋼の接触においても異種金属接触腐食は生じるため、更新部材となるステンレス鋼と普通鋼の間に絶縁処理を施す必要があります。 そこで、エポキシ樹脂板を絶縁体として使用した場合に、十分な絶縁効果を得られる方法を様々な条件での腐食促進試験により検証しました。その結果、図-3に示すようにステンレス鋼と普通鋼の接触面より少し大きな絶縁体を使用することで、十分な絶縁効果が発揮できることを確認しました。
 

写真-2 異種金属接触腐食の例

写真-2 異種金属接触腐食の例
図-3 絶縁効果が発揮できる絶縁体設置方法

図-3 絶縁効果が発揮できる絶縁体設置方法


4.現場への適用

 上記以外にも様々な検証を行ったうえで、道路管理者と連携し、試験的に実橋梁に対してステンレス鋼による部材の更新を行いました(写真-3)。 今後は、試験的にステンレス鋼で部材更新を行った実橋梁の状態を継続的に監視したり、環境測定を実施したりすることで、実環境における耐久性能の評価を継続的に実施していきます。  

 

写真-3 ステンレス鋼の実橋梁への試験適用(左:施工前、右:施工後)

写真-3 ステンレス鋼の実橋梁への試験適用(左:施工前、右:施工後)






(問い合わせ先 : 構造物メンテナンス研究センター  橋梁構造研究グループ)