研究の紹介

地震に強いダム造り
 〜ダムの耐震性診断〜


図−1 ひび割れの発生した重力式コンクリートダムを模擬したコンピュータ解析例

写真−1 ひび割れの発生した重力式コンクリートダムを模擬した模型振動実験の状況

図−2 ロックフィルダムのコンピュータ(沈下)解析結果の一例

 我が国は世界有数の地震国で、近年においても、1995年の兵庫県南部地震、2004年の新潟県中越地震、2008年の岩手・宮城内陸地震などの大地震が頻発し、建築物やライフラインにも甚大な被害をもたらしています。こうした中、大規模構造物であるダムの地震に対する強さ(耐震性)についての必要性が高まっています。これまで、我が国では地震により大きな被害を受けたダムはありませんが、今後、将来発生する可能性のある大規模地震に対して、事前にダムの耐震性を評価しておくことは、安心・安全な国造りにとって大変重要です。ここでは、ダム地点において現在から将来にわたって考えられる最大級の強さを持つ地震動を想定したときの、重力式コンクリートダム(コンクリートにより築造されたダム)とロックフィルダム(岩石や土により築造されたダム)の耐震性評価のための研究の一例を紹介します。

○重力式コンクリートダム
 重力式コンクリートダムは非常に頑丈な構造物ですが、大きな地震動により、万が一ダムの一部にひびが入り、それがダムの上流面から下流面に向けて貫通あるいは貫通に近い状態までひびが進行する可能性があります。このような状況を想定し、ひび割れにより分断したコンクリートブロックの地震時の動きを模型実験やコンピュータ解析で把握するという、重力式コンクリートダムの耐震性を評価できる方法の開発を目指した研究を進めています(図−1、写真−1)。

○ロックフィルダム
 ロックフィルダムは岩石や土で築造されているため、大規模地震時にはすべりや沈下といった変形が発生する可能性があります。このような状況を想定し、ダムの築造に使用されている岩石や土などの材料の強さや変形特性についての実験やコンピュータ解析を行い、ダムの地震時の変形状況を把握するという、ロックフィルダムの耐震性を評価できる方法の開発を目指した研究を進めています(図−2)。
 これらの研究成果を順次実際のダムの耐震性診断に適用していき、安心・安全な国造りに貢献しています。



問い合わせ先:ダム構造物チーム

コンクリートの凍害・塩害による複合劣化の評価に関する研究
 〜コンクリートを簡易に検査〜


スケーリング      ポップアウト

3次元スキャナー      剥離の深さによって
            色が異なる


表面走査法の概略図

表面走査法による検査状況

 我が国では社会基盤整備のため、これまでに膨大なコンクリート構造物が建設されてきました。今後は、これらの老朽化に伴う耐久性の低下が懸念されます。特に北海道のような北国の積雪寒冷地のコンクリートは、冬期間に凍結融解作用を受けて、ひび割れ、スケーリング(表面剥離)、さらにはポップアウト(骨材膨張による円錐状剥離)が発生することがあります。なお、海岸付近や路面凍結防止剤の散布される地域では、凍害による劣化に加えて塩害の影響も受けます。また、塩分がある環境下では、コンクリート自体の劣化が加速することに加えて、コンクリート内部の鉄筋が腐食しやすくなり、さらに劣化が進みます。こうした構造物を維持管理していくためには、コンクリートの劣化の度合いを評価する必要があります。
 コンクリートの劣化の度合いを評価するため、例えば圧縮強度、ひび割れ密度やコンクリートへの塩分の浸透しやすさ等を用いることがあります。しかし、これらの評価にはコンクリートの破壊を必要とし、時間もかかります。当チームでは、迅速かつ構造物を破壊せずに現場で劣化評価を行う非破壊試験法について研究を行っています。ここでは、3次元スキャナーを用いたコンクリートのスケーリングによる剥離深さの測定技術および超音波を用いた表面走査法による凍害劣化を検査する技術について紹介します。
 3次元スキャナーは、レーザー光を用いてコンクリート表面の凹凸を読み取る装置です。読み取ったデータを解析することにより、剥離深さ毎に段階的に色分けして、画像として見ることができます。
 今までの研究では、剥離深さと目視による劣化度評価について相関性があることや、定量的に剥離量を評価できる方法として利用可能であることを確認してきました。また、これらのデータからスケーリング劣化により減少したコンクリートの鉄筋までの被り厚を効率的に求めることも出来るようになりました。
 表面走査法は、コンクリート表面に発振子と受振子をあて、発振子から発振された超音波がコンクリートを伝わり受振子に到達するまでの時間を計測します。超音波は、固い物体ほど早く伝わる性質があることから、コンクリートが劣化し損傷部がある場合は、健全なものに比べて到達時間がより長くなります。このようなデータを解析することで、凍害等を受けたコンクリート内部の劣化の状態(深さ、コンクリート組織への緩み)を把握することができるようになりました。今後は、これらの非破壊試験法が凍害・塩害による複合劣化の評価方法として有効かどうかの確認を行い、実用化に向けて研究を進めていきます。



問い合わせ先:寒地土木研究所 耐寒材料ーム