研究の紹介

LiDARを用いた土石流観測手法の開発



写真-1 有村川第三砂防堰堤を流下する土石流(大阪ほか、2013)

写真-1 有村川第三砂防堰堤を流下する土石流
(大阪ほか、2013)



図-1 二次元LiDARセンサによる写真‐1に示した土石流流下断面計測結果(大阪ほか、2013)

図-1 二次元LiDARセンサによる写真-1に示した
土石流流下断面計測結果
(大阪ほか、2013)



 図-2 三次元LiDARセンサによる計測結果の一例

図-2 三次元LiDARセンサによる計測結果の一例


 土石流の正確な流量を観測することは、氾濫被害の予測や対策のために重要です。このため火山・土石流チームでは、LiDARセンサを活用した、土石流の観測手法を開発しています。LiDARとは、Light Detection And Ranging(光検出と測距)の略称で、レーザ光を照射し、対象物から帰ってきた反射光の検知にかかる時間を計測することで、対象物までの距離を計測する技術のことです。 LiDARセンサは、広い範囲を、高い頻度で、昼夜を問わず計測することができる強みを持っています。当チームでは、これらの強みを持ったLiDARセンサを、土石流の観測に活用する方法を考えています。そこで、2012年6月から桜島の有村川第三砂防堰堤(鹿児島県鹿児島市)の水通しにLiDARセンサを設置して、年に数回発生する土石流を観測しています。


 当チームではまず、二次元的に測距を行うLiDARセンサ(以下、二次元LiDARセンサ)を用いて、土石流の流下断面積の計測に取り組みました。写真-1は、同年6月21日に発生した土石流を撮影したビデオ映像の一コマを切り出したものです。土石流が、上述の堰堤の水通しの上を、写真に向かって右側に偏って流れている様子を確認できます。 偏って流れるのは同堰堤の上流の水路が湾曲しているためです。図-1は、同時刻の二次元LiDARセンサによる土石流の計測結果です。この図では、土石流が、図に向かって右側に偏って流れている様子を確認できます。この結果は、点しか計測できない水位計とは異なり、二次元LiDARセンサを使うとたとえ偏流があっても土石流の流下断面積をより正確に計測し得ることを示しています。

 

 次に、同じ二次元LiDARセンサを用いて、土石流の流速の計測に取り組みました。2014年5月に、新たにもう一つの二次元LiDARセンサを同堰堤の正面に設置し、水通しから飛び出してくる土石流が落下する様子を計測しました。水通しの正面と直上に設置したふたつの二次元LiDARセンサによる計測値を実験式に当てはめることで、土石流の流速を推定しました(吉永ほか、2017)。 この推定結果を、超音波流速計での計測結果と照らしあわせると、おおむね合致しました。この結果は、土石流表面を計測する二次元LiDARセンサだけで土石流の流速を推定し得ることを示しています。


 現在、当チームでは、三次元的に測距を行うLiDARセンサ(以下、三次元LiDARセンサ)を活用した土石流の観測手法の開発に取り組んでいます。図-2は、三次元LiDARセンサによる計測結果の一例です。三次元LiDARセンサによる土石流の観測は、新しい種類のデータを取得できるため土石流の流動機構のさらなる解明に繋がる可能性があります。



  参考文献
    1) 大坂剛, 髙橋英一, 國友優, 山越隆雄, 能和幸範, 木佐洋志, 石塚忠範, 宇都宮玲, 横山康二, 水山高久. 桜島における土石流荷重計による単位体積重量測定. 砂防学会誌. 2013, Vol. 65, No. 6, p.46-50
    2) 吉永子規, 清水武志, 水谷佑, 髙橋佑弥, 藤村直樹, 泉山寛明, 石塚忠範. レーザ測距儀を用いたナップ飛距離及び水深の計測方法の提案と流速推定への応用. 砂防学会誌. 2017, Vol. 70, No.1, p.46-53




(問い合わせ先 : 土砂管理研究グループ 火山・土石流チーム)

舗装切削痕の残る床版に設置した防水層の接着性能低下の検証



図-1 As防水層の設置状況

図-1 As防水層の設置状況


図-2 引張接着試験の結果

図-2 引張接着試験の結果


 図-3 せん断試験の結果

図-3 せん断試験の結果


 道路橋のコンクリート床版(以下、床版)の長期耐久性を確保するためには、路面から床版への雨水等の浸入を防ぐ必要があります。そのため、劣化損傷が顕在化した床版や防水層が未設置の床版では、橋梁補修工事において劣化損傷の抑制や予防保全を目的に防水層の設置が行われています(図-1)

 橋梁補修工事における防水層設置工の多くは、(1)切削機による既設舗装の撤去、(2)防水層の設置、(3)舗装復旧の手順で行われますが、舗装切削痕の残った床版面(以下、切削面)に設置した防水層では、床版に水を流入させないための「防水性能」、床版および舗装と一体となるための「接着性能」が低下することが指摘されています。
 そこで寒地構造チームでは、既設床版に設置する防水層の性能改善技術に関する研究を行っています。ここでは、切削面に設置した防水層における接着性能低下の検証事例を紹介します。

 

 アスファルト加熱型塗膜防水(以下、As防水)を対象に、室内試験により、防水層設置面の種類(平滑面または切削面)やAs防水材の塗布量が防水層の接着性能低下に与える影響を検証しました。試験は、「道路橋床版防水便覧(日本道路協会、平成19年3月)」(以下、防水便覧)の引張接着試験およびせん断試験に準じて実施しており、その結果、以下のことを確認しました。

1)切削面に設置したAs防水層では、切削作業時の衝撃等によりコンクリート表面に発生する微細なひび割れが弱点となることで、平滑面に設置した場合と比較して引張接着強度が低下することを確認しました(図-2)

2)切削面に設置したAs防水層では、切削面溝部において防水材膜厚が局部的に大きくなることでせん断接着強度の低下が生じ、防水材塗布量が増加するほど接着強度の低下が顕著になることを確認しました(図-3)。また、標準量に対して過度に防水材を塗布した場合、防水層を設置した時点で、接着強度が防水便覧における合否判定の目安を満足しない可能性があることを確認しました。


 実際の橋梁補修工事では、現場毎に切削面性状(凹凸の程度)が異なることが想定されますが、これまでの検討では、切削面性状と接着性能との関係性を評価できていません。今後は、現地調査により切削面性状の実態を把握するとともに、現地調査結果を反映した追加の検証試験を行い、防水層の品質管理手法(管理項目や性能照査方法)ついて検討していく予定です。













(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地構造チーム)

断熱材を活用したコンクリート舗装修繕工法の普及への取り組み



図-1 凍上によるコンクリート舗装の破損例

図-1 凍上によるコンクリート舗装の破損例



図-2 熱伝導解析結果の一例

図-2 熱伝導解析結果の一例


1.はじめに

 コンクリート舗装はアスファルト舗装よりもわだち掘れやひび割れに対する耐久性が高く、長寿命化によるライフサイクルコストの縮減が期待されています。一方で、図-1に示すようにコンクリート舗装は一枚板のような版構造であり、凍上により発生する凹凸に追従することができず上図のような状態となると、交通荷重がかかることにより早期にひび割れが入ってしまいます。 このような理由から、積雪寒冷地でコンクリート舗装を用いる場合にはアスファルト舗装よりも凍上対策を手厚く行う必要があります。

 このため、老朽化したアスファルト舗装を耐久性の高いコンクリート舗装へ打ち換えようとした場合、追加の凍上対策が必要になることがあります。このような場合、これまでの工法では凍結の入る深さまで道路を掘り下げ、凍上する土を凍上しない材料に置き換えなければならず施工費・工期が増大します。そこで、当チームではこの課題を解決するため凍結の侵入を抑える断熱材を用いた技術(断熱工法)の適用について研究を行っており、その取り組みについて紹介します。



2.試験施工による評価と工法の普及

 熱伝導解析(図-2)などの結果に基づいて断熱材の設置深さを決定し、試験施工(写真-1)により断熱効果を検証しました。その結果、断熱材を活用することで従来の工法よりも対策を行う深さを小さくすることができ、かつ十分な凍上抑制効果を得られることが明らかとなりました。

 設計から施工までの一連の留意点をとりまとめた「断熱材を活用したコンクリート舗装修繕工法の設計・施工マニュアル(案)」(図-3)を作成し、実際の舗装修繕工事で活用できるようにしました。本成果は国土交通省北海道開発局道路設計要領にも反映されています。本技術によりこれまでの工法と比較して凍上対策に伴う施工費や工期が圧縮され、アスファルト舗装に対しライフサイクルコストが有利となりコンクリート舗装の普及促進への貢献が期待されます。



写真-1 断熱材の施工状況

写真-1 断熱材の施工状況
(断熱材により凍結の侵入が抑えられている)
図-3 断熱材を活用したコンクリート舗装修繕工法の設計・施工マニュアル(案)

図-3 断熱材を活用したコンクリート
舗装修繕工法の設計・施工マニュアル(案)





(問い合わせ先 : 寒地土木研究所 寒地道路保全チーム)