研究成果の紹介

3次元の多自然川づくり支援ツールの開発と普及

 自然共生研究センターでは、治水と環境に関する検討を並行して進めることができる「3次元の多自然川づくり支援ツール」を、河川の流れや河床変動の解析が可能なiRICソフトウェアと連動させて開発しています(図-1)。平成31年度には地形編集が可能な「RiTER Xsec」、令和2、3年度には河川環境の簡易な評価が可能な「EvaTRiP Pro」を開発し、誰もが利用できるように無償で公開しています。

 「RiTER Xsec」は、3次元地形の編集機能を有し、河道の瀬淵や水辺など環境保全の上で大事な箇所を河道横断面図で確認しながら改修河道の地形を検討できます。こうして設定した河道地形に対してiRICの機能により水理計算が行え、設計対象とした流量が安全に流下するための治水の検討が行えます。同様に「EvaTRiP Pro」によって改修河道の生物生息場の評価が可能となります(図-1)。 このように治水と環境の両面で河道地形の検討を行うことで、河川環境に配慮しつつ、災害を防ぐ川づくりが河道の3次元データを活用することで効率的に進められるようになりました。災害復旧事業は迅速な対応が求められ、限られた時間の中で進められます。そうした状況下において上記のツールによって3次元で地形を見ながら検討することは、河川の自然環境や人の利用についても治水との兼ね合いしっかりと考慮した多自然川づくりを行っていくうえで、非常に役立つと考えています。
 

 令和3年度からは本ツールの普及に力を入れ、河川管理者、建設コンサルタント、大学の研究者などを対象に操作方法を習得するオンラインセミナーを3回開催した他、解説動画を公開しました(YouTubeにおいて関連動画10本(合計視聴回数 約8,000回))。また、普及に関するルール作りとしては、令和3年度、国土交通省より発出された事務連絡(「多自然川づくりの高度化を目指した河道の三次元設計の実施について」)において、本ツールが河川環境評価を行う上での主たるツールとして取り上げられました。 また、令和4年度に発出された「多自然川づくりの高度化を目指した河道の3次元設計ツール導入手引き(素案):(公財)リバーフロント研究所(図-2)」の作成にも大きく貢献しました。国土交通省では令和5年度までに小規模を除く全ての公共工事において、BIM/CIM原則適用の方針が示されているところであり、令和3年度以降、直轄9河川でEvaTRiP Proなどを用いた「3次元の多自然川づくり」の試行が進められています。今後も本ツールの機能を拡充するとともに、講習会や解説動画を充実させることで幅広く普及させていきたいと考えています。
 

図-1 iRICと連動した「3次元の多自然川づくり支援ツール」(緑枠:土木研究所で開発しiRICに追加した機能)

図-1 iRICと連動した「3次元の多自然川づくり支援ツール」
(緑枠:土木研究所で開発しiRICに追加した機能)
図-2 サイト内より手引き(素案)のダウンロード

図-2 サイト内より手引き(素案)のダウンロード



(問い合わせ先 : 流域水環境研究グループ  自然共生研究センター)